奄美大島の豊かな生物多様性について
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Environment
豊かな生物多様性を
支える多様な
生息・生育環境
日本の面積の0.2%にも満たない小さな奄美大島に、地形や気候などの影響で多様な環境がつくられています。それぞれの環境に適応した多様な生き物が関わりあって命を育んでいます。
温暖・多湿な恵みの気候
奄美大島が属する亜熱帯海洋性気候は、黒潮とモンスーンの影響によって1年を通して温暖で降水量が多く、多くの動植物にとって恵まれた環境です。
年間降水量
約3,000mm
東京の年間降水量は約1,600mmです。
起伏に富む複雑な地形
地殻変動によって形成された小さな尾根や谷が点在しており、各所に渓流や滝による湿潤な環境がつくられています。ゆるやかで長い川が流れ出る河口部には砂泥が堆積し、干潟やマングローブ林がつくられています。
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年間日照時間
約1,300時間
1位の埼玉県は約2,300時間です。
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気温25°C以上の日
約120日
鹿児島市の約2倍です。
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年間平均気温
25°C以上
四季を通じて温暖多湿です。
Biodiversity奄美の森に暮らす生きものたち
- 身近なシイの森
- 深みをます
シイの森 - 大木が支える
シイの森 - 雲霧林
- 渓流
- マングローブ
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01身近なシイの森
再生し成長する明るい森
奄美大島は、島の8割以上が樹木におおわれていますが、その多くは、二次林です。原生林は林業などで過去に伐採され、その後成長力の強いスダジイ (シイ) などが芽を出し現在の森を形づくってきました。
シマ (集落)の周囲にある森は、伐採から20年ほど経った明るい森です。古道や炭窯跡などが残るところがあり、昔から続く人と自然との関わりを見ることができます。人に身近なシイの森にも、明るい森を利用する多くの動植物がすんでいます。生きものピックアップ!
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アマミヤマシギ
奄美群島及び沖縄諸島に生息。長い嘴で土壌の中をつつき、虫やミミズなどを食べています。
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ルリカケス
全長約38cm。頭部と翼、尾が瑠璃(るり) 色で、常緑広葉樹の森林に生息しますが、里にも生息します。
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シャリンバイ
日本国内や東アジア、東南アジアに広く分布します。春には梅の花に似た花を咲かせ、材は大島紬の染料として利用されます。
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02深みをますシイの森
緑の葉が生い茂り
生きものたちでにぎわう森伐採から20~30年前後でシイの二次林は高さの上限である約15mに達しますが、その後もさらに幹を太らせ横枝を伸ばして傘のように葉を茂らせていきます。伐採から35年程度が経った森では、シイの葉が日光をさえぎるので森の中は暗くなり、シイより背の低い樹木や下草、落葉が積もった林床など、たくさんの種類の植物の階層ができてきます。
こうして多くの生きもののすみかや食料を提供する、シイを中心とした豊かな亜熱帯多雨林へ成長していきます。生きものピックアップ!
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シマオオタニワタリ
屋久島以南の琉球列島で木々の幹などに生育するシダ。大きいもので葉は2mほどになる植物です。
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イジュ
ヒメツバキの亜種で常緑性の高木。5月の連休頃に白色でツバキの仲間らしい大きな花を咲かせます。
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リュウキュウコノハズク
奄美大島から与那国島に生息するフクロウ。全長22cmで、夜に「コホッ、コホッ」と鳴きます。
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03大木が支えるシイの森
たくさんの生きものを育む森
年月を重ね、伐採してから50年以上が経った森には、さらに成長したシイなどの大木が見られるようになります。太い横枝からさらに枝が伸びたり、幹に樹洞ができたり、板根を大きく発達させたりと、さまざまな姿かたちに成長していきます。最終的に手つかずの森に近い状態まで回復するには、伐採後100年以上かかると考えられています。
大木には多くの種類の着生植物が育ち、林床にも希少な植物が見られます。樹洞や倒木など、さまざまな環境が、この地域にしかいない動植物のすみかになります。このシイの森は、奄美大島の生物相を支える、とても重要な森です。生きものピックアップ!
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スダジイ
奄美の森を代表する樹木。春に咲く花は甘い香りを漂わせ、多くの昆虫類を惹き寄せます。秋に実るシイの実は動物たちの貴重な食糧になります。
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アマミマルバネクワガタ
奄美大島、加計呂麻島、徳之島に生息。大木の森でしか繁殖できないため、大規模伐採などにより個体数や生息地が減少しています。
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オオトラツグミ
奄美大島にのみ生息。3~4月の繁殖期には未明から薄明にかけての早朝に「キョローン、ツィー」と美しいさえずりが森に響きます。
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04雲霧林
霧に包まれた冷涼な森
熱帯・亜熱帯地域の海抜500m以上の山地に形づくられる森は雲霧林と呼ばれ、晴れた日でも雲や霧がかかりやすいため湿度が高く、日射量が限られた環境です。奄美大島の雲霧林は気温が比較的低く、強い風や乏しい栄養状態に耐えるため、成長しても背が低いままの樹木が多いことが特徴です。湿潤な環境を好むシダ類やラン、蘚苔類などの種類が豊富で、枝や岩壁などに着生する奄美固有の植物を見ることができます。
生きものピックアップ!
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マメヒサカキ
常緑の低木。海岸などで普通に見られるハマヒサカキの変種であり、本変種の花には中々出会わない。
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アマミヒメカカラ
サルトリイバラ科の仲間で落葉性の低木。奄美大島の湯湾岳周辺にのみ生育する固有種です。
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マルダイコクコガネ
奄美大島と徳之島にのみ生息。アマミノクロウサギなどの糞をエサとします。後ろ翅が退化しているため飛ぶことはできません。
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05渓流
命を育む豊かな水の流れ
山地から海まで続く急峻な地形が多い奄美大島では、雨量が多いために水の流れで地面が削られてたくさんの尾根と谷がつくられました。 谷を流れる河川の中上流部では、雨が降るたびに2~3m近い増水と減水がくりかえされます。植物は、増水時の激流と減水時の乾燥に適応するために、葉を細長くあるいは小さくして水流の抵抗を少なくしたり、発達した根や根茎で岩にしがみついたり、泥水が早く乾くように葉の毛を少なくしたりするなどの特徴を持ちます。また、水辺には奄美大島固有のカエルやトンボなどがみられます。
生きものピックアップ!
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アマミイシカワガエル
奄美大島のみに生息。緑色の地色に金色の斑点が背中全面に入り美しいです。繁殖期の1~5月頃には高く澄んだ声で鳴きます。
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ヒメハブ
山地から平野の水辺や林床に生息する毒蛇。夜行性で主にカエルなどの小型脊椎動物を食べてます。
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アマミカタバミ
渓流沿いの岩上でコケ植物にまぎれて這うように生育。植物体は非常に小さく、小葉は3~5mm程度、花も1cmにも満たないほどです。
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06マングローブ林
山からの水の恵みと豊かな海が
つなぐ生命の満ちる場所マングローブとは、熱帯や亜熱帯の河口などの淡水と海水が混ざり合う汽水域に生育する特殊な植物の総称です。奄美市住用町にある役勝川と住用川が合流する河口付近には、広大な亜熱帯多雨林などから栄養分や土砂が流れ込み、国内で有数の広さを誇るマングローブ林が発達しています。主な構成種はメヒルギとオヒルギで、サキシマスオウノキやシマシラキが混生します。またマングローブ林はリュウキュウアユなど魚類の稚仔魚や、甲殻類や貝類の幼生の成育場所になり、潮間帯の泥湿地にはミナミトビハゼやミナミコメツキガニ、シオマネキ類、ヤエヤマヒルギシジミ、オキナワアナジャコなどの多様な生きものが生息しています。
生きものピックアップ!
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ミナミコメツキガニ
南西諸島に生息。前方向に歩くことができ、干潟では回転しながら砂の中に潜る姿が見られます。
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オヒルギ
常緑高木。マングローブの構成樹種の一つ。果実は樹上で発芽して成長したのち、落下する特徴があります。
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リュウキュウアユ
奄美大島と沖縄島に生息していたが、沖縄島では1970年代に絶滅。冬に河床に産卵し、幼魚期は海の沿岸で生活して、春にまた遡上します。
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Calendar
シイの森の生きものごよみ
移りゆく季節とともに変化していく奄美の森の風景。
季節ごとに咲く花々、遠くからやってきて、やがて旅立つ鳥たち、繁殖そして子育て。
生きものの様子から季節を感じ取ろう。
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シイの葉が落ち、黄色い花が咲く。 花の匂いに誘われた昆虫や、それをエサにする鳥が集まってきます。
春に活動する代表的な動物
ルリカケス・アマミヤマシギ・ハブ -
雨が渓流の水量を増します。落ち葉や腐葉土が多くの水を蓄えます。
梅雨に活動する代表的な動物
アカショウビン・リュウキュウコノハズク・シリケンイモリ・ハブ・オットンガエル -
シイの森が、強い日差しと台風から生きものを守ります。
夏に活動する代表的な生物
オオシマゼミ・アマミマルバネクワガタ・ハブ・アマミイシカワガエル・リュウキュウトンボ -
シイの実が、森にすむ生きものたちの食料になります。哺乳類は繁殖期を迎えます。
秋に活動する代表的な動植物
ケナガネズミ・アマミトゲネズミ・ハブ・アマミノクロウサギ
ヤッコソウ・リュウキュウアユ
サシバ -
ハブの動きが少し鈍り、哺乳類は子育てシーズンです。生まれた子どもたちがシイの実を食べて成長します。
Evolution
ハブを頂点とする
特異な生態系
中琉球の奄美大島、徳之島及び沖縄島北部の生態系は、肉食獣や大型猛禽類を欠いた結果、大きなものでは全長2m程度になるヘビ類のハブやアカマタが、それぞれの属の中で最大級の体サイズに到達することで、最上位の捕食者となっています。
アマミノクロウサギ(奄美大島と徳之島の固有種)やトゲネズミ属の3種(奄美大島、徳之島、沖縄島北部の固有属)は地上で活動する夜行性動物のためハブと遭遇する危険性が高いですが、ハブの危険を避けるように適応しています。
例えば、アマミノクロウサギは切り立った斜面に出産用の巣穴を掘り、広く周囲が見渡せる崩落地や河原などで採食し糞をします。また、トゲネズミ類はハブの攻撃に対して50cmほど垂直に跳び上がり、ハブの攻撃をかわします。
そのため、ハブの餌動物にトゲネズミが含まれることは希です。一方ハブと同じく夜行性のアカマタは、マダラヘビ属の他種と同様に哺乳類の捕食例は少ないですが、胃内容物はハブを含む他の爬虫類や鳥類が少なくありません。
さらに、砂浜では、ヘビとしては極めて例外的に、上陸・産卵するウミガメ類の孵化幼体や卵を摂食する特殊な行動を示しており、島嶼ならではの食物網・物質循環の一端を担っています。